前橋汀子は日本を代表する国際的ヴァイオリン奏者で、その演奏の優雅さは多くの聴衆を魅了してやみません。
これまでにベルリンフィルやロイヤルフィルなどの名楽団で演奏し、国内外で高い評価を受けています。
1988年に最初のバッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとバルティータ」全曲を録音しています。
それはとても優れた演奏でありました。
それからおよそ30年。前橋汀子自身が以前の録音を振り返って「未熟」と断じ、全6曲の再録音に踏み切ったのが2017年。
30年間の円熟した経験を経て「是非もう一度」と取りかかった再度の「無伴奏」の全曲録音は2019年8月に発表されました。
世界を代表するヴァイオリニストが過去の自分の演奏を未熟と断じて再演奏する。プロのアーティストとしてのプライドを感じます。
その無伴奏を生で聴く機会があったので行ってきました。
広いステージに彼女のヴァイオリンのみ。
彼女の緩急あふれる演奏。その中で何度も高音と低音を同時に弾く重音奏法があり、一挺のヴァイオリンのみということを忘れてしまうほどでした。
前半75分、後半75分と彼女は立ったまま一人で弾き続けました。
75歳とは思えない体力、気力。
そのステージは神々しいオーラにつつまれた気迫にあふれるものであり、最高の演奏に立ち会えた瞬間であったように思います。